ゴクラクハゼ
Rhinogobius giurinus
外見の特徴
この個体はメスで、第2背びれが透明で扇形をしているのがわかります。 右後方に移っているのはオスで、2つの背びれに黄色い色が出ているのが見えます。 どちらもお友達のお宅の個体。
体型は他のヨシノボリとよく似ていますが、眼から鼻先までの長さが長いので顔がいわゆるウマヅラに見えます。 その頭部には迷路状の模様がとても細かく密に存在しています。 また、腹びれがヨシノボリ類よりも大きく平らで吸着力が弱いことや、オスでも第一背びれが伸びず、ヨシノボリほど目立った色もなく透明であることなどから、模様以外の形態的な特徴によってヨシノボリ類との判別が可能です。 幼魚のうちはむしろマハゼとの判別の方が紛らわしいのですが、体の側面に輝白色の小斑点が散在するようになると本種であることが分かるようになります。 この小斑点が黒く太い模様の上に並ぶのは本種の特徴で、成魚のメスでは輝白色の斑点が多く、オスではルリ色に輝く斑点も多く混じります。 他のヨシノボリ類と比べると若いうちの雌雄の判別が難しいのですが、10cm 近い成魚になると第2背びれの形状と色で判別ができるようになります。 すなわち、メスでは無色透明で細かい点列模様のある扇形のような形なのに対し、オスでは平行四辺形に近い、後方に伸びた形状をしており、端部が黄色や見る角度によって金属光沢のある金色に彩られます。 抱卵したメスはお腹が大きく膨らむものの、その際に特にお腹が色づくことはなく、白い色のお腹をしています。 日本のヨシノボリ属の中では最も大きくなる種類で、下流域で見つかる大型の個体では10cm を軽く越える個体も多く、飼育下でも12cm ほどに成長します。 したがって、他のヨシノボリ類よりも広めの飼育環境を用意してあげた方がいいでしょう。
分布状況
こちらは若いオス。 第2背びれは四角形で、端部に黄色い色が出始めていますが、若い個体では雌雄の判別が難しい魚です。静岡県の個体です。
東北地方以南の日本各地の河川に生息し、南西諸島の延長線上に位置する国外の地域にも生息するようです。 私の知る限りではシマヨシノボリと同所的に生息していることが多いように思いますが、本種の方が下流よりまで分布し、ヌマチチブやスミウキゴリ、ナガノゴリやカワアナゴ類、ヒナハゼなどと一緒に汽水域でも見つかります。 ただし、他の魚の放流に混じってわりと上流で見つかることがあるほか、沖縄本島では人工の水路が河川間に通っているところもあり、本来の生息域と異なる環境で見つかる場合もあります。 「陸封ゴクラクハゼ」という名前で若魚がショップで売られているのを見たことがありますが、それも何らかの人為的な影響を受けた個体群 なのかもしれません。 河川ごとに違うことですが、生息数は少なくもなく多くもなくといったところで しょうか。 本種のように普通に見られる魚に川で目を向けておくことは重要で、こういった魚の生息数の変化から水環境のバランスの崩れを感じさせられることもよくあります。
生活
河川の下流や汽水域に好んで生息していますが、若い個体は中流域まで上がってくるようです。 腹びれが平らで吸着力も弱いので、ヨシノボリよりも流れの緩やかな砂底のエリアに多く見られます。 人影にはわりと敏感に反応し、浅いところで狙って網で捕まえるのは ヨシノボリ類に比べると若干難しいです。 下流域では水没した空き缶やパイプ類の中なども隠れ場所として利用しており、市街地の河川に適応できている集団もあるようです。 産卵は下流域ないし汽水域まで下って行っている と考えられるほか、雌雄2匹で見られる頻度が高い気がするので、産卵行動の前後においてもペアで行動する期間があるのかもしれません。 基本的には両側回遊魚なので孵化後にすぐ海に下り、ある程度成長してから河川に戻ってきて、底棲生活に移っていきます。
飼育
成魚になると第2背びれに雌雄差が顕著になってきます。 この個体は第2背びれが大きく伸び、黄色い色の出たオスの成魚です。 鼻の長さや顔の幅もメスより微妙に大きく、オスらしい顔つきになっています。 写真では見づらいですが、体の側面の黒い部分にある小さな宝石のような斑点は、オスでは青色の濃いものも並んでいます。
飼育は淡水飼育で問題ないですが、産卵を観察したい場合などは塩分が多少あってもいいのかもしれません。 うちでは、病気予防などで塩分を入れてあったかもしれないですが、淡水飼育をしているつもりで産卵に至ったことがあります。 他のヨシノボリ類と比べて配慮が必要な点としては、少し広い環境を用意してあげる必要があるくらいで、丈夫な魚ですし、飼育自体は容易です。 体調が安定すると縄張り意識を持つようになるので、障害物や隠れ場所は多めに用意してあげるといいでしょう。 食性は動物食中心の雑食で、冷凍アカムシなどのエサのほかにも配合飼料なども食べるかもしれません。 下に体全体を隠すことができる大きさの石や割れた植木鉢などを入れておくとオスはその下の砂利をどけて巣穴を作ります。 成熟したメスも一緒に飼育しているとその巣穴に産卵します。 卵はヨシノボリと比べても非常に小さく、稚魚も小さいので体に合うエサを維持するのが困難だったり、水質の変化に弱かったりするので稚魚を育てるのは非常に難しいようです。
★★★ もっと ゴクラクハゼ! ★★★
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屋久島で採集した美しいオスです。 第2背びれは赤や黄色に彩られ、ひれの大きさも大きく、なかなか派手です。 |
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屋久島のメスです。 本州で見る個体よりも雌雄差がはっきりしているように感じます。 なお、屋久島では純淡水の中流でも見られ、流速での住み分けこそあるものの、ボウズハゼやクロヨシノボリ、ヒラヨシノボリと同じエリアで見られることもあります。 また、沖縄本島でも一部の河川で中流域に見られる場合がありますが、これは人工の地下水路を経由している可能性 もあるようです。 |
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