カエルハゼの求愛行動

(Feb. 2006)

 の年に飼育と観察を始めたカエルハゼ。 はこの魚、ボウズハゼの仲間の中で一番求愛行動を観察したかった魚でありました。 れは、この魚の婚姻色にあります。 鑑の情報からまず一番気になるのは、成熟したメスのお腹が赤色に染まるらしいこと。 本のボウズハゼ類でメスのお腹に婚姻色が出る種類はほかになく、私の察する限りでは海外にもそのような種類はカエルハゼとそれにごくごく近縁な種類のみであると思われます。 腹が赤く染まるのにも理由があるはずで、これはオスに誇示するためのものであることが予想されます。 しそうならば、メスの方が積極的に求愛行動をリードするのかもしれません。 ウズハゼ類では、メス主導で求愛行動が行われる種類はおそらく知られていません。 た、オス主導の求愛行動というのは、種類によって多少の差はあれどおよそ想像ができるものですが、メス主導となると何か変わった行動を見せてくれるのではないかと期待が膨らみます。

 かし。 鑑などでカエルハゼの写真を見ると、雌雄差が現れやすい第2背びれなどはメスよりもオスの方が幾分大きく伸びています。 れはボウズハゼ類としては普通のことですが、ボウズハゼの仲間は求愛行動中にオスの体色が派手になるものが多く、大きく伸びた背びれをオスがメスに誇示します。 いうことは、カエルハゼはメスのお腹と同時にオスにも婚姻色が現れることが予想されるわけです。 た、ナンヨウボウズハゼ類のように通常時からかなりきれいな体色をしている種類と異なり、アカボウズハゼ属やヨロイボウズハゼ属の魚は求愛行動中にだけ体色が極端に美しくなります。 エルハゼのオスの求愛行動中の体色を撮影した写真は見たことがありません。 ・・・このように、求愛行動においてこれほど謎が多い魚はいなかったわけですが、ついに!水槽で求愛行動を観察することができました。 卵まではまだ至っていないようですが、ヨロイボウズハゼのときも初めて求愛行動が見られた年には産卵しなかったので、それはまた来年かな、と思っています。 いうわけで、まずは撮影できた求愛行動の様子をご紹介します。

   

 れが通常時のオスの体色。 鑑にもこのような体色の個体の写真ばかり見られることから、時期的に繁殖期であっても求愛行動中でなければこのような体色をしているものと思われます。 槽で見ていても、自分の視界にメスがいないときはこのような体色をしています。 かし、メスが現れると・・・。

 

 

 のように体色が急変! は黒ずんで、背びれと尾びれの淡色部は鮮やかな黄橙色に染まります。 ウズハゼ類としては地味な婚姻色と言えますが、どんな色になるのか分からなかった魚が急にこんな姿になるさまは、まさに変身したかのような衝撃でした。 味とはいえ、黄色と黒というコントラストのキレは強烈です。 ”君もやはりボウズハゼの仲間なんだねぇ”と思った瞬間でした。 真に撮ると深い青に輝く眼がまた素敵です。  
 

 て、気になるメスのこのときの体色は・・・。 はり!スにも婚姻色が出ています。 れの端部にはオスと似て黄色い色が出ていますが、こちらは緑色を帯びた色になっています。 ういう色が出る魚というのは珍しいのではないでしょうか。 題の、お腹の赤い婚姻色はあまり派手じゃないぞ、と思われるかもしれませんが、この婚姻色には不思議な秘密があるようなのです・・・。 れは、求愛の行動と一緒にご紹介しましょう。
 

 ちらは、水槽で初めて求愛行動が見られ始めた頃のカエルハゼ夫妻。 ス(手前)が体を湾曲させてしまっていて、はじめは闘争か何かで背骨が曲がってしまったのだと思い、落胆しました。 骨が一度曲がってしまえば無事に治る可能性はかなり低いのです。 かし、少し観察しているとどうもオスの様子もおかしい・・・。 ばらく見ていると、メスは何事もなかったように体をまっすぐに戻したりしています。 れはもしや・・・。 う、これはメスがオスにお腹を誇示しているところだったんですね。 スにお腹を見せるときのメスは、体の縞模様が明瞭になり、体が一様に黒ずむオスとは対照的な姿になります。 

 

 じころのカエルハゼ夫妻の別ショット。 スがお腹をオスに見せ付けている様子がよくわかります。 だし、メスはオスに迫っていくようなことはあまりなく、お腹を見せてその場でオスが次の行動に出るのを待っているようです。 熟したオスはこのメスの行動を受けて、メスのそばに泳いできて中層で一瞬踊るような行動を始めます。 のオスのダンスは非常に素早くて一瞬の動きなため、肉眼ではメスにどのようなアピールをしているのかわかりません。  

 

 

 スのお腹の色が見える写真がこちら。 のお腹の色も求愛時に瞬時に鮮やかな色になります。 マヨシノボリのメスのお腹の青のように成熟時はいつも色が鮮やかなものとは違うようです。 スはメスのそばでクルリとターンするようなダンスをしています。 スの体色が淡いことからもわかるように、この頃はまだ雌雄ともに十分に成熟してはいなかったようです。

   

 

 してこちらはもう少し後になって、求愛時の体色もはっきりとしてきた頃の写真。 方に見えるオスはこの頃から黒と黄色の婚姻色が出るようになりました。 スの体も縞模様がはっきりとしてきて、背びれに黄緑色が出始めてきました。 心のお腹の色はどうなっているかというと・・・  
   
 なんとも鮮やかな赤いメタリックにお腹が輝いていました。 かも、この赤はオスの視線から見ないと鮮やかに見えない仕組みになっているようなのです。 とつ上の写真でも分かるように、背中側やオスと反対側の体側を見ても赤い色はほとんど目立ちません。 
 

 愛行動が非常に機敏に行われるため、なかなか上手く写真が撮れないのですが、こちらが求愛中のメスをオスの視線から撮影したもの。 い色はオスの視線からは非常に鮮やかに見えていることがわかります。
 

 て、こちらは求愛行動をじっくり見るために、動画で撮影したものです。 っていませんが、メスの向こう側にはオスがいて、メスはそれを見てお腹を持ち上げ始めています。 はりこちら側からはお腹があまり赤く見えません。 
 

 スが婚姻色をまとってやってきました。 スは一層激しくお腹を持ち上げてオスに誇示します。
 

 スはメスのすぐそばで急旋回して見せます。
 

 ると、メスもお腹を持ち上げる方向を変えて、こちら側をオスに見せます。 して、動画にして実にわずか1コマ進む間、オスはメスに視線を送るように一瞬だけ中層で止まって見せます。 ると、メスもお腹の角度をオスに向けて調節します。 んの少し角度を変えただけでお腹がとても鮮やかに見えることが分かります。
 スはそのまま一度メスのそばを去り、またメスの様子を見ます。 のような行動を何度か繰り返します。 かな巣穴ではなかったようですが、オスを追ってメスが石の下に入っていくのを見たので、うまくオスが巣穴を確保していればこのまま産卵に至るのではないかと思われます。

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その後の考察・・・。

種の求愛行動は以前に観察したリップスティックゴビーのものに比較的似ていました。 ップスティックゴビーはメスの腹部に婚姻色は出ず、メスがオスに腹部を誇示することはありませんが、オスの機敏な求愛の仕方はほぼ同じ動きでした。 ップスティックゴビーと本種を比較すると、求愛行動のほかにも、背びれの大きさにあまり雌雄差がないことや細長い体型などの共通点が多く、互いに近縁な種類であるようです。 種はアカボウズハゼ属の魚ですが、アカボウズハゼとは求愛行動の様子が全く異なっています。 で観察したアカボウズハゼの求愛行動は、むしろヨロイボウズハゼの求愛によく似ていました。 れらのボウズハゼ類はいまのところ歯の形状などから形態的に分類されているようですが、カエルハゼとアカボウズハゼは本当に近縁なのかな?と思ったりしました。 

種は雌雄ともに婚姻色を発し、互いに積極的なアピールを行います。 例えば、

メスがお腹を赤く染めて誇示しなければ、オスがダンスを始めない

メスがお腹を誇示しても、オスがダンスをしなければ求愛は進行しない

というような、二段階の求愛によって成立しているようで、これは交雑を防ぐという観点で見ればとても高度な行動なのではないかと思います。 縁と思われるリップスティックゴビーと一緒に飼育したとしても、オスのみが主導するリップスティックゴビーとの間には求愛が成立しないことが予想されるわけです。 ウズハゼの仲間はヨシノボリ類などと比べると海を介して広く拡散するため、近縁な種類が主要な分布域と異なる地域からやってくることもあると思います。 シノボリ類でも異なる種類を一緒に飼育して、いわゆる”お見合い実験”は行われているようですが、求愛行動の違いによる交雑防止はボウズハゼ類ではさらに高度に進んでいるのかもしれないなぁと思いました。 れはとても興味深いことで、同じ属であってもある程度縁の遠い種類であれば、外見的に種類を識別できるように婚姻色がそれぞれ派手になってきたのではないかと思われますが、種類ごとに行動にも個性があることがますますわかってきて、ほかの種類もいろいろ行動を見てみたいなぁと改めて思ったのでした。 

 

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