琵琶湖産トウヨシノボリの産卵

(Dec. 2005)

 琶湖産のトウヨシノボリはアユなどに混じって放流され、各地でそれらしい個体が見つかります。 の住む神奈川にも明らかにそれらしい集団がまとまって見られる場所があり、繁殖を中心とした生態を一度は観察したいと思っていました。 かし、どうせ見るなら元来琵琶湖にいる個体のものを監察したいと思い、ビワヨシノボリと一緒に連れて帰ったのでした。 愛時の婚姻色や行動などには琵琶湖産ならではの特徴も見られ、珍しくない魚でも水槽でじっくり観察するのは面白いなぁと改めて思ったのでした。

   

 ちらは婚姻色の出たオス。 奈川に琵琶湖から持ち込まれたと思われる個体では体の地色が濃いこげ茶色のものが多いのですが、本来の琵琶湖産の個体は暗い灰色になるようです。 がモノトーンなので、尾びれの橙色はとても鮮やかに見えてとても目立ちます。 高潮に色が出たときには背びれの基底付近にもうっすらと橙色が出るようです。 

 

 

 分に成熟したメスがこちら。 唇と眼の下の線が黒く縁取られ、お腹の青色はピーク時でもあまり鮮やかにはなりません。 分的に鮮やかな色が出るものは、その部分を求愛時に異性に誇示する行動がよく見られます。 種の場合はメスからの積極的な求愛は見られず、メスのお腹の色が淡いのはその行動と対応する特徴と見ることもできるでしょう。 琶湖以外に在来するトウヨシノボリの橙色型ではもっとメスのお腹の青が鮮やかになり、オスに誇示する行動もよく見られますが、そういった生態を獲得する過程を示唆しているものかもしれないと思うと、とても興味深い特徴に思えてきます。  
 

 愛行動中のペアの様子。 オスの体色は暗い灰色一色のモノトーンに染まり、尾びれの橙色だけが対照的にとても鮮やかになって目立っています。 オスの顔で求愛時に淡色部が現れる部分は種類によって異なっていますが、本種の場合は眼から鼻にかけての赤線と上唇の間の部分に淡色部が現れます。
 

 スの婚姻色が派手なのはどのヨシノボリにも言えることですが、この尾びれの橙色斑のようにある部分だけが極端に鮮やかになる特徴を持っているのは実はトウヨシノボリと一部のカワヨシノボリだけです。 スの求愛行動をよく見てみると、その尾びれを持ち上げて、旗でメスを誘導するかのように橙色の部分をひらひらさせてメスに見せています。 分の体色の特徴を活かす行動をする様子は、見ていて感心させられます。

 

 スは自分が先に巣穴に入ると、今度はしきりに顔を左右に震わせる行動を見せます。 れは尾の橙色がメスに見えなくなったところで、おそらく音を出しているのだと思われます。  

 

 してメスが最終的にその気になれば、オスを追って巣穴に入っていきます。 
   
 巣穴に入ったあと、産卵の様子を観察させてもらおうと思ってカメラを手にしたものの、なかなか産卵を始めてくれません。 れはどうもこちらの気配を完全に察知されているようです。 かの種類ではあまりジレるとメスがしびれをきらして巣穴から出て行ってしまうこともあるのですが、このペアはなかなか固い愛情で結ばれているようです。 も遅くなり、「いつもなら寝てる時間だろ!寝るまで産卵始めないからな!」というオスの視線と強い意志を感じて、撤収することにしました。 
 

 朝、改めて巣穴を見てみると、当たり前のような顔をして卵を守るオスがいました。 っちが飼い主なんだか・・・。
 

 スは卵を保護する間も巣穴の外にまで出て周囲の監視をします。 愛時に見られたモノトーンの体色は引いていて、通常時の体色に戻って青いウロコが光って見えています。 
 

 卵から1週間ほどたった夜、胸びれで卵に水を送るオスの動きが少し激しくなると・・・ きらきらと輝く眼をした稚魚が巣穴の中で生まれ始めました! 
 

 親が巣穴の中で体を大きく翻すと、それを合図にするかのように、稚魚が巣穴の入り口に一気に泳ぎだしてきます。
 

 して、入り口から出ると真上を目指して小さな体で懸命に泳いでいきます。 
 

 まれた稚魚を狙って、周囲からは他のヨシノボリが集まってきます。 穴に残る稚魚を送り出すことに必死な父親の目にも、その光景は写っています。 ういうドラマチックな場面が自然界では繰り返されているわけですね。 の光景は人間が見れば父親に感情移入して悲しく見えたり、襲う側に感情移入すれば何も無抵抗な稚魚を襲わなくても、と思うところでしょう。 かし、実は人間だけが異常なのであって、人間以外のすべての動物は自然界でも水槽の中でも生きるために全力をかけて生きていますから、自分が死なないためには食べられるものを食べるということをするのです。 べての行動が生きるために有利なものであって、無駄な行動はひとつもしないのが水槽の魚と人間の大きく異なるところです。 れをふまえて水槽を眺めたとき、それぞれの行動の意味を考えさせてくれるのも観察の大きな楽しみではないかと思います。
 魚はいっせいに水面をめがけて泳いでいきます。 れには集団でいることで襲われる犠牲を減らしたり、深いところにいる大きな魚たちがやってこない(水面付近に大きい体で漂っていると自分が鳥などに狙われる?)水面付近に逃げ込むなどの意図があるものと思われます。 親が夜に孵化させるのも、眠っている魚が多い時間帯を知っているのでしょうね。 卵の観察からは、ほんとに多くのことを学ぶことができます。

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産卵、その後に考えたこと・・・。

 琵琶湖産のトウヨシノボリの通常時の体色はよく知っていましたが、今回の観察では求愛行動時の特徴的な体色も見ることができました。 琶湖以外の場所のトウヨシノボリは成熟時のメスの腹部がもう少し明瞭に青くなるものが多く、メスがオスに腹部を誇示する行動が見られなかったのも琵琶湖産の特徴であると思われます。

 じようにメスのお腹が青くなる種類として有名なのがシマヨシノボリですが、トウヨシノボリとシマヨシノボリが同所的に生息する河川はあまりありません。 まり、多くの河川ではメスのお腹の青くなるヨシノボリはトウヨシノボリかシマヨシノボリのどちらか1種類しかいないことになります。 しお腹の青いメスだけを選んで巣穴に誘導する能力をオスが持っているなら、それだけで他種との交雑を避けることができるわけです。 際には、これ以外にも交雑を避ける工夫がいろいろと凝らされているのだと思いますが、琵琶湖のトウヨシノボリを見たときに、これはメスのお腹が青くなるという特徴を会得する過程の途中を示しているのか、それともお腹が青くなくても琵琶湖では生き残れるから退化したのか、どっちなんだろうと考えさせられました。 ちろん、本当のところは分からないのですが、もっといろんなものを観察しているうちにそのヒントも見えてくるかもしれないな、と思いました。 

 槽に限りませんが、観察はそういったヒントが隠された宝箱のようなものだと思うときがあります。 しくない魚でも、産卵行動の観察というのは発見がいろいろとあるものなので、機会があったら是非挑戦してみてほしいと思います。

 

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