「改革開放が中国社会にもたらしたもの」
(はじめに)
今回「改革開放が中国社会にもたらしたもの」ということにあたり、私は中国の環境 問題について書くことにする。中国へ行く機会が何度かあり、それがきっかけで一昨
年は一年ほど中国に留学して、当地で生活することができた。改革開放真っ最中の現 在の中国と接することができ、何を書こうか大変迷ったが、これから最将来を考える
上で最も重要な問題の一つである環境問題をとりあげることにした。
(本題)
中国は文化大革命終了後の1978年末から20年以上にわたって経済成長を目指して改革 開放を政策を実施してきた。79年から98年までの20年間の経済成長率は年率平均で
9.8%を保持し、驚くべき経済発展を遂げ今日に至っている。中国では、現在、環境 問題は重視されているが、つい最近までは「公害問題(三廃問題=排水、排気、産業
廃棄物)は存在しない」としていた。しかし現状は、公害、環境問題に対する意識が なかったというだけであり、また公害問題の存在を仮に認めたとしても、外部に漏れ
ることを極力抑えてきた。これから、具体的な環境問題についていくつか述べていく ことにする。
大気汚染
中国のエネルギー消費量は、78年の6億2770万トンから96年には13億2616万トン、 97年には13億1989万トンへとほぼ倍増した。エネルギー消費の75%が石炭であるため
大気汚染は主として煤煙に起因するものである(煤煙型)。主な汚染物質であるSO2 (二酸化硫黄)の排出量は89年には1912万トンであったが、97年には、2346万トンに
増加し、アメリカを抜いて世界第一位であり、日本の80万トンの約30倍である。年間 CO2(二酸化炭素)の排出量は95年で30億トンあり、これは全世界の実に11%を占め
(日本は5.4%)、アメリカの24.6%についで世界第2位である。温暖化原因ガスであ るCH4に関しては、3300万トンであり、全世界の発生量(15億トン)の8%を占める。
2050年には中国を含んだ発展途上国からのCO2の発生量が全発生量の50%を越えてし まうと予測されている。このような状況の結果として、工業都市を中心に呼吸器系疾
患が増加している。年間の慢性気管支炎が原因による10万人当りの死者は、日本の場 合16.6人であるのに対し、中国ではその10倍の166.6人にものぼる。その中で最も被
害が大きいことで有名なのが四川省重慶市である。重慶は、北京、天津、上海につぐ 四番目の直轄市に指定され、三峡ダムの開発で注目されている大都市である。その重
慶では、年間石炭使用量は1700万トンで、SO2の排出量は日本一国の80万トンを上回 り85万トンもある。年間平均SO2濃度は空気1立メートル当り0.4ミリグラムで、市民
の呼吸系疾患の有症率は37%である。日本の四日市市の最悪期の1960年代末でも12〜 13%であったことからも、重慶の大気汚染の深刻さが分かる。
酸性雨
硫黄酸化物や窒素酸化物が原因とみられる酸性雨(ph5.6以下の雨を酸性雨とい う) も近年急増している。酸性雨の降雨地は、85年には全土の18%であったが、96年には
40%に拡大した。農地と森林に及ぼした被害は96年で97億元に達し、沿海地区では酸 性雨のために農地1000万ヘクタールが影響を受け、農作物に37億円元の被害、森林
128万ヘクタールの木材の損失は6億元にものぼった。酸性雨の被害は特に、華中、西 南地方で深刻である。北部で比較的被害が少ないのは、土壌がアルカリ性で中和能力
があることみられる。酸性雨の土壌への蓄積は、酸性度が限界に達すると森林の再生 が極めて難しくしてしまい、これが酸性雨の恐ろしいところでもある。
森林消失
中国の森林面積は134万平方キロメートルで、国土のわずか13.9%に過ぎないが、 砂漠化している面積は262.2万平方キロメートルで国土の27.3%を占める。これは
オーストラリア、サウジアラビア、スーダン、アルジェリアにつぐ面積である。森林 消失の最大の原因は、人口増加による農地化と燃料の伐採である。これは最近に始
まったことではない。古代から森林の消失は続いていたが、近代以降の人口の急激な 増加でさらに加速されることになった。温暖で湿潤な気候を有する日本は、農地化や
燃料確保による中国と同じような森林伐採があっても、大規模な森林消失は発生しな かった。しかし中国(特に北部、北西部)では年間降水量が600ミリ以下と極端に降
水量が少ない(日本は1100ミリ以上)ため、森林消失の最大要因の一つとなっている。
沙漠化
中国では毎年、東京都の面積に匹敵する約2100平方キロメートルの割合で沙漠が広 がっている。沙漠化の原因として過耕作、過放牧、過度の薪炭採取、水資源の非合理
的利用などがあり、人為的原因がその87%を占める。内モンゴルでは新中国成立以 降、大量の漢民族が送り込まれて草原が農地化された。一時的に農地面積が拡がった
が、その後、土壌の栄養分と水の供給が間に合わなくなり農地も不毛化してしまっ た。結果として、農村の貧困化が進み、農産物を少しでも多くえるために更に周辺地
域の木々の伐採と農地化が進行した。半乾燥地帯での土壌の養分と水分を奪う農業に よって沙漠化は一層拡大することになった。
白色汚染
中国で最近特に問題となっている新しい問題が、この「白色汚染」である。弁当や 快餐 (ファースト・フード)などの容器、包装資材として使われる発泡スチロール(泡沫
塑料)による汚染のことをいう。食べ終わった容器をそのままぽい捨てしまうため に、特に線路沿いや農地が白く埋まってしまうほど散在してまう。そして水分の土壌
へ浸透や根の成長を妨げ、穀物の収穫量を大幅にへらしてしまうほど問題は深刻化し ている。ビニールを始めてとするプラスチックの中国での生産は98年で年間690万ト
ンで日本のわずか10分の1に過ぎないでこの現状では、将来さらに問題は深刻化する おそれがある。私自身、中国でこれはつぐづく感じた。列車の乗客がみんなそとにゴ
ミを捨ててしまうし、休日後の公園はそれこそ「真っ白」になってしまっているのを よく目にした。
以上、中国の環境問題を具体的にみてきたが、これら各々の問題は別個の問題では 決してないところに注意しなければならない。人口の急増、農地の劣化による農村の 貧困化が進行すると、「盲流」となって農村から都市への大規模な流入が起こる。そ の結果、都市の人口が膨れ上がり、インフラが人口の急増で追いつかない都市は、大 気汚染、水質汚染、土壌汚染が進行する。同時に酸性雨が降り注ぎ、都市周辺部の農 地は更に劣化し森林も消失する。農村では土壌劣化による農業生産性の低下を補填す るために、森林や半乾燥地帯の草原の農地化が無理に進められる。その結果、森林は なくなり、草原は沙漠化する。そこに大雨が降り栄養分のある土壌が流失してしま い、また収入源の補填のために農地を拡大したり、農業に見切りをつけた人が都市部 へ流入する・・・といった悪循環になっている。都市と農村、農村と森林、草原の間 の連鎖サイクルによって都市、農村、森林、草原の共生関係が崩壊し、農村の貧困化 と環境破壊が同時進行しているといえる。よって、中国の環境破壊のおもな原因が人 口の増加と貧困であるといってよい。
1971年スウェーデンで開催された第一回国連環境会議に中国は代表団を派遣し、こ れをきっかけとして73年第一回全国環境保護会議を開催し、中国における環境汚染の 存在を認め、環境の保護、保全に取り組むことになった。89年に「環境基本法」を正 式発布し、全国人民代表大会では、「予防を主として、予防と対策を結合する。」 「汚染したものが対策を講じる」「環境管理を強める」ことを原則とした「水質汚染 防止法」「大気汚染防止法」「固体廃棄物環境汚染防止法」「騒音防止法」などを制 定した。97年には刑法に「環境と資源保護を破壊する罪」が追加されなど国としての 法整備も徐々にではあるが進みつつある。
(おわりに)
初めて中国へ行ったのは1997年の夏のことだった。中国の街に降り立ったときの最 初の印象は人が多いということだった。街を歩き回ると排気ガスで顔汚れるのがわ
かった。中国で生活してみると、これからが中国の「正念場」だと思った。なんでも ビニル袋に入れてくれるが、今はまだすぐに破けてしまうような薄手の袋が一般的で
ある。もう少しすれば日本並みに頑丈なビニル袋が一般に普及するだろう。今は、圧 倒的大多数の人が自転車で移動しているが、この人たちがバイクに乗って、乗用車に
乗り出したら…。田舎で禿山をバスで何時間も越える。しかしあるところで突然緑の 山になった。単に植生の問題かと思っていたがそうではなく禿山は伐採されて植林も
されず荒地と化してしまったものだった。 このような実際の体験があるので、納得しながら書き進めることができ、また、環 境問題は連鎖反応式に全てに関連していることが分かった。世界の人口の5分の1を占
める中国の動向が世界の環境問題を左右するということの重大性を認識させられた。 中国はかつて「人口問題は中国には存在しない。」といってきたが、後にその重大さ
に気付いてから「一人っ子政策」を断行しある程度の成果をあげてきた。それと同じ ように環境問題も、国の国の強力な指導体制のもと問題が改善されていくことを望む
ばかりである。今まで、文化とか民族とか自然や政治などの視点から中国を見ること が多かったが、これからは、環境という側面からも見ていきたいと思う。
(参考資料)
『中国で環境問題にとりくむ』 定方正毅著 岩波新書 2000年
『中国 現代ことば事情』 丹藤佳紀著 岩波新書 2000年
『中国の環境問題 研究と実践の日中関係』小島朋之編 慶應義塾大学出版 2000年
『中国2020年への道』 朱 建栄著 NHKブックス 1998年
『図解 中国のしくみ』 稲垣 清著 中経出版 1997年