もう一度だけ、僕は君に出会えるような気がするんだ。
会えば、君は傷つくかも知れない。
会わなければよかったと、僕は後悔するのかもしれないよ。
それでも僕は、君が来てくれるのを待っている。
あの、降りつもる雪の下で…
この、静かなる岡の上で……
「夜って好きよ、ルーシー。」
「アナタは嘘つきですね、ミザリー。
人は闇を畏れるものではないのですか?」
むかしむかしのお話です。
雲の上に浮かぶ、それはそれは美しい庭園がありました。
やわらかな日が射し、花は咲き乱れ、
石造りの真っ白な御殿の中央には、お姫様がいました。
大理石で造られた、白くて美しいお姫様。
その瞳には、大きくて真っ赤なルビーがはめ込まれ、
銀の髪は、日の光を受けるとキラキラと輝きます。
美しいけど誰もいない。誰も来ることのできない庭。
綺麗だけれどひとりぼっち。がらんどうのお姫様。
ある日、偶然にも一羽の小鳥が庭に舞い降りました。
小鳥はしばし安らぐと、奥にいるお姫様に気がつきます。
小鳥は、なんだか哀しい気持ちになりました。
すると、どうしたことでしょう。
小鳥の流した涙に触れるや、たちまちのうちに、
お姫様は、人間のお姫様になったのです。
お姫様は、小鳥を抱きしめて泣きました。
小さな小さな、その小鳥にすがるように。
お姫様は、ただずっと、しあわせそうに泣いていました。
それから数日。
小鳥は自分の巣に帰らなくてはなりません。
もう一度、かならず会いにくるから、と告げて。
けれど、お姫様は哀しそうに答えました。
この庭であったことは、すべて忘れてしまうよ、と。
小鳥は。
もう一度いいました。
すべてを忘れてしまっても翔びつづけるから、と。
翔びつづけるかぎり、いつかかならず戻ってくるから、と。
小鳥は、それきり戻りません。
それでも、この空のどこかで。
お姫様は、小鳥を待ち続けているのかも。
今でも、ずっと…。
「それで? 小鳥はどこへ行ってしまったの?」
「それには諸説ありましてね…。
まあ、どれも解釈者の好みというか、"願望"が反映されていますね。」
「ルーシー。あなたの好みを聞きたいわ。」
「私の好みは、もっとも一般的なものです。
小鳥は、わけもわからず、ずっと空を飛び続けるのです。
なんのために、どこへ飛んでいるのかを忘れてしまっても、
大切な人を探して永遠にね…。」
「あなたはサディストね、ルーシー。」
「センチメンタルなことが好きなだけですよ。
アナタなら、どんな『答え』を出すのですか、ミザリー?」
「鳥が飛ぶのに理由なんていらないわ。鳥だから飛んでいるだけよ。
お姫様なんて、ばからしいわ。」
「アナタはリアリストですね、ミザリー。
でも、"鳥ではなくなってしまった"という解釈もあるのですよ。」
「そういう飛び道具は興ざめね。"王子様"にでもなったのかしら?」
「もちろん、陳腐なパターンとしては、そういう解釈もあります。
ちなみに私の好きなところでは、"狼になった"という話が素敵ですね。」
「それは確かに、離れ技すぎてサイコーね。」
「お姫様を忘れたくない一心で、小鳥は狼に変わるのです。
強い心で、お姫様のことをいつまでも忘れない。
でも、翼をなくした狼は、二度とお姫様には届かない。
だから、できるだけ高い山の上から、叫び続ける。
お姫様が寂しくないようにね。」
「"お姫様を探す小鳥"よりは、だいぶマシなストーリーね。
でもやっぱり、ルーシーの好みはサディスティックだわ。」
「"童話好き"なんて、そんなものですよ。
ルーシー・ザ・クラウンは哀しいお話が大好きなのです。」
「ところで、お姫様はどうなったのかしら? 大理石の人形に逆戻り?」
「そういうストーリーもありますし…、もしくは"いつかくる小鳥"を想って、
いつまでも幸せに暮らす……なんて話が一般的ですね。」
「それで? あなたの好みは、どうなのかしら?」
「どうやら、アナタも哀しいのがお好きのようですね、ミザリー。
そう、お姫様は結局、ひとりぼっちの寂しさに耐えられなくなるのです。
そして小鳥を想い、土くれから"蝶"を……造り出す。」
「ふ〜ん……あなたの言いたいことを理解したわ、ルーシー。
でも、あなたはサディストなだけじゃなく、悪趣味ね。」
「失礼。お気に障りましたか?」
「いいのよ、ルーシー。悪趣味なあなたがキライじゃないわ。
それにこの物語は、もうすぐ終わりを迎えるもの。」
「はい、その通りでございます。ミザリー・イレイズ。」
「私が終わらせるもの。」
かくして、舞台の幕が開く。
これは、ふたりの少女による再会の物語。
この、静かなる岡の上で……。
Back to the EPISODE-4 ?
|