EPISODE-5:静かなる岡の上で





もう一度だけ、僕は君に出会えるような気がするんだ。

会えば、君は傷つくかも知れない。

会わなければよかったと、僕は後悔するのかもしれないよ。

それでも僕は、君が来てくれるのを待っている。

あの、降りつもる雪の下で…































この、静かなる岡の上で……














































「夜って好きよ、ルーシー。」

「アナタは嘘つきですね、ミザリー。
 人は闇を畏れるものではないのですか?」































 むかしむかしのお話です。

 雲の上に浮かぶ、それはそれは美しい庭園がありました。

 やわらかな日が射し、花は咲き乱れ、
 石造りの真っ白な御殿の中央には、お姫様がいました。


 大理石で造られた、白くて美しいお姫様。


 その瞳には、大きくて真っ赤なルビーがはめ込まれ、
 銀の髪は、日の光を受けるとキラキラと輝きます。


 美しいけど誰もいない。誰も来ることのできない庭。

 綺麗だけれどひとりぼっち。がらんどうのお姫様。


 ある日、偶然にも一羽の小鳥が庭に舞い降りました。

 小鳥はしばし安らぐと、奥にいるお姫様に気がつきます。

 小鳥は、なんだか哀しい気持ちになりました。

 すると、どうしたことでしょう。

 小鳥の流した涙に触れるや、たちまちのうちに、
 お姫様は、人間のお姫様になったのです。


 お姫様は、小鳥を抱きしめて泣きました。

 小さな小さな、その小鳥にすがるように。

 お姫様は、ただずっと、しあわせそうに泣いていました。


 それから数日。

 小鳥は自分の巣に帰らなくてはなりません。

 もう一度、かならず会いにくるから、と告げて。

 けれど、お姫様は哀しそうに答えました。

 この庭であったことは、すべて忘れてしまうよ、と。


 小鳥は。

 もう一度いいました。

 すべてを忘れてしまっても翔びつづけるから、と。

 翔びつづけるかぎり、いつかかならず戻ってくるから、と。


 小鳥は、それきり戻りません。


 それでも、この空のどこかで。

 お姫様は、小鳥を待ち続けているのかも。

 今でも、ずっと…。































「それで? 小鳥はどこへ行ってしまったの?」
「それには諸説ありましてね…。
 まあ、どれも解釈者の好みというか、"願望"が反映されていますね。」


「ルーシー。あなたの好みを聞きたいわ。」
「私の好みは、もっとも一般的なものです。
 小鳥は、わけもわからず、ずっと空を飛び続けるのです。
 なんのために、どこへ飛んでいるのかを忘れてしまっても、
 大切な人を探して永遠にね…。」


「あなたはサディストね、ルーシー。」
「センチメンタルなことが好きなだけですよ。
 アナタなら、どんな『答え』を出すのですか、ミザリー?」


「鳥が飛ぶのに理由なんていらないわ。鳥だから飛んでいるだけよ。
 お姫様なんて、ばからしいわ。」
「アナタはリアリストですね、ミザリー。
 でも、"鳥ではなくなってしまった"という解釈もあるのですよ。」


「そういう飛び道具は興ざめね。"王子様"にでもなったのかしら?」
「もちろん、陳腐なパターンとしては、そういう解釈もあります。
 ちなみに私の好きなところでは、"狼になった"という話が素敵ですね。」


「それは確かに、離れ技すぎてサイコーね。」
「お姫様を忘れたくない一心で、小鳥は狼に変わるのです。
 強い心で、お姫様のことをいつまでも忘れない。
 でも、翼をなくした狼は、二度とお姫様には届かない。
 だから、できるだけ高い山の上から、叫び続ける。
 お姫様が寂しくないようにね。」


「"お姫様を探す小鳥"よりは、だいぶマシなストーリーね。
 でもやっぱり、ルーシーの好みはサディスティックだわ。」
「"童話好き"なんて、そんなものですよ。
 ルーシー・ザ・クラウンは哀しいお話が大好きなのです。」


「ところで、お姫様はどうなったのかしら? 大理石の人形に逆戻り?」
「そういうストーリーもありますし…、もしくは"いつかくる小鳥"を想って、
 いつまでも幸せに暮らす……なんて話が一般的ですね。」


「それで? あなたの好みは、どうなのかしら?」
「どうやら、アナタも哀しいのがお好きのようですね、ミザリー。
 そう、お姫様は結局、ひとりぼっちの寂しさに耐えられなくなるのです。
 そして小鳥を想い、土くれから"蝶"を……造り出す。」


「ふ〜ん……あなたの言いたいことを理解したわ、ルーシー。
 でも、あなたはサディストなだけじゃなく、悪趣味ね。」
「失礼。お気に障りましたか?」


「いいのよ、ルーシー。悪趣味なあなたがキライじゃないわ。
 それにこの物語は、もうすぐ終わりを迎えるもの。」
「はい、その通りでございます。ミザリー・イレイズ。」































「私が終わらせるもの。」














































かくして、舞台の幕が開く。

これは、ふたりの少女による再会の物語。














































この、静かなる岡の上で……。















































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