RASHOUMON
芥川竜之介氏の「羅生門」はみなさんご存知ですよね。紹介を少し。
・・・芥川竜之介の短編小説。1915年11月<帝国文学>に掲載。芥川の心の作家的出発を告げる初期の傑作である。
平安末期の荒れ果てた羅生門の楼上、職を失った下人は死人の髪を抜き取っている老婆を取り押さえるが、生きるためにはこうするほかはないという老婆の言葉を聞くや、その着物を剥ぎ取って闇の中へ消えてゆく。
材を<今昔物語集>に取り、下人の心理の推移を見事に書きとって見せたこの作品の主題をエゴイズムの剔抉に見るか、老婆の語る倫理を超えたニヒリズムに見るか、あるいは下人の示す善への勇気と悪への勇気をともにもった人間存在の矛盾そのものの凝視に見るか、その主題は幾様にも読み取れるが、いずれにせよ人間を常に複眼的にとらえ、人生の一局面を鮮やかに切断して作品化せんとする短編作家芥川のまぎれもない誕生をここに読みとることができよう・・・
「羅生門」は現代文の授業でやったんですけど「高校の授業ってすごいなあ」とか思いました。
そして同じ現代文の授業で「羅生門」の続きを作ってみよう、ということになりました。それで上手く作れたので皆さんに見てもらおうと思い、ここに書きます。
下人の行方は、誰も知らない・・・。
しかし、下人の姿を目に留めるものたちもいた。それは死人の肉をついばみに来ていたからすであり、また双方の瞳に悔恨の念を浮かべ
た大量の死人でもあったが、からすも死人もただただ見ているだけだ。問題なのは、そこに心の臓がとくとくと動いている、人間の子供が
いたことだ。年の頃は5,6歳だろうか。身には何もまとっておらず、右の頬にかすかだがにきびのようなものが見える。その心臓の音は
秋の夜の寒さも影響してかとても微弱なもので今にも途切れそうであった。暗闇の中でなんとか生命活動を続けている、その子供に近づく、
ひとつの小さな影があった。その影は猿のような形をしていたが確かに人間のように手足を動かしている。それは、先ほど下人に着物を剥
ぎ取られた老婆であった。老婆は子供に近づき、その形容からは想像もし得ない力で子供を抱き上げた。そして羅生門をくぐり抜け明かり
の見える方角へ、一歩一歩ゆっくりと歩いていった。老婆も子供も全裸のままだ。はたから見れば異様な光景だが見咎めるものは誰もいな
い。ただ、からすの群れが死人の肉をついばむのを急にやめじっと老婆と子供の後ろ姿を見ているだけだった。
下人はある川のほとりに立っていた。その顔は盗人になる、と決心した先程の顔よりは幾分落ち着いていた。自分が取った行動をゆっくり
と検証していたのだ。下人は迷っていた。本当にこれでよかったのか。ろくに考えもせず、意思の赴くままに動きすぎたのではないだろう
か・・・。
下人は、ふと自分の右手に握られている、ぼろぎれのような着物を見た。その途端、下人の顔から今までの、多少安心した表情が急速に萎え
ていった。下人は着物を川に投げ捨てると、速足で町の明かりが見えるほうへと歩き出した。その町は以前、下人が下働きとして雇われてい
た主人の屋敷がある町だ。
下人は町に着くと、迷わず屋敷へと向かった。慣れ親しんだ町なので道に迷うことはない。思えば物心ついたときから主人の下で働いてい
た。何の疑問ももたず、ただ主人のために働いていた。それだけで毎日が楽しかった。顔立ちもそれなりによかったのでたくさんの女を知る
こともできた。親はいない。冬の夜に屋敷の玄関の前で倒れていたところを主人に助けてもらった。
なぜ、倒れていたのかは思い出せない。主人の話では、体中にひも状のもので叩かれたような傷が無数にあったそうだから、思い出したくな
いのかもしれない。
少しだけ感傷に浸っている間に下人は屋敷の前に立っていた。下人は塀を飛び越えるとまっすぐに主人が寝ているはずの部屋へ進んでい
った。時刻は朝方。今の季節、一日で最も冷える時間だ。
障子を開けると、主人が大きないびきをかいて幸せそうに眠っていた。下人は聖柄の太刀に手をかけると、一挙動で主人の首を断ち切っ
た。血がほとばしり、下人の顔にも多量の返り血がかかったが、下人は無表情に胴体のなくなった首を見つめた。別に恨んでいた訳ではない。
むしろ、助けてもらって感謝しているほどだ。ただ、これから自分が生き抜いていくために、なんと言うか、「勢い」みたいなものを欲して
いたのだ。老婆の着物を剥ぎ取ったときにはまだ多少の迷いが残っていたが下人の心にはもう、それが入り込む隙間はなかった。
下人は外に出ると、朝冷えのする町を悠々と歩き去っていった。
「・・・・最近、僕はこんなことをよく考える。人間とは何なのか。生きている意味とはなんだろうか。人間は死んだらどうなるのか。神
は一体何のために人間を創造したのだろうか・・・。」
15,6歳の子供たちなら誰でも一度は考えたことがあるであろう疑問だ。ここまでなら一般の子供たちといっしょだが、この子はそれら
の子供たちと明らかに違っていることがあった。一般の子供たちならばその疑問を心に残しつつも他人に言わないでいるか、いつのまにか
忘れてしまっているかであるがこの子はその疑問を育ての親である老婆に聞いたことがあった。それはあの日、羅生門にいた老婆であった。
身なりは質素でも目つきは全く変わっていなかった。目つきと言っても、その目は白く何も見えてはいないようだ。
「人は生きている意味など本当はないんじゃ。ただそのことを考えるのがいやで、無理にそれっぽいことを上げて生きているんじゃ。だが
な、わしはこう思う。人間なんてものはひどく利己的で自分がよければ人はどうでもいい、汚い生き物だと。そういうことを言うのはよくな
い、と言う輩もおるが、わしはそれでもかまわないと思う。人は自分の快楽を求めるためだけに生きていればいいんじゃ。」
老婆はこう、子供に言った。子供は「わかった」といったが、全くその答えに満足していなかった。子供は一般の人々の疑問、その底にあ
る意味を考えていたのだ。子供はその後、寝るひまも惜しんでそのことについて考えをめぐらし、あるひとつの結果にたどり着いた。それは
言葉には言い表せないもので子供の頭の中にのみ存在するものだった。
子供はある夜、住んでいるぼろ家を飛び出し町を出て行った。子供は羅生門に向かっていたのだ。羅生門では今でもなお悲惨な状況が続い
ており、15,6の子供が行くような場所ではなかった。しかし子供は特にひるんだ様子も見せず、人間の腐敗臭が漂う中を歩いていった。
目的地が明確にわかっているようでその足並みは悠然としていた。楽しさと悲しさが混ざったような顔をしておりその心中を探ることはひど
く困難であった。もしもこの世に、神というものが存在しているのなら、その顔に秘められた想いを理解することができたかもしれない。だ
が神はわかっていてもただ見ているだけだろう。なぜなら、この子供の行動は神によってすでに定められたものであったからだ。
子供はふと立ち止まるとあたりを見渡した。その行動は誰かを探しているようだったがこの羅生門にくる好き者など、まずいない。しかし、
子供の視界にひとつの影が入ってきた。その影はゆっくりと子供に向かっていた。男のようだ。男の右頬には大きなにきびのようなできもの
があった。その男は下人だった。あの頃からは10年ほどの年月が経っており、一目見て下人だとわかるものはそうそういなさそうなほど
下人の様子は変わっていた。筋肉が盛り上がっており、格闘家を思わせる。そしてその目つきからは昔の姿など想像することもできない。
下人は何故自分がここにいるのか、この子供は誰なのか、が全くわかっていなかった。あるときから記憶が飛び、気が付いたらこの状況に
なっていたのだ。
両者、にらみ合ったままで一歩も動こうとしない。いや、「にらみ合って」という表現は適当ではないかもしれない。にらんでいるには下
人だけで、子供のほうは微笑しているだけだ。だが暗闇の中ではどちらの顔も見えなかった。
先に沈黙を破ったのは子供のほうだった。
「人はある目的のために生きているのではない。生きる目的を探しながら生きているのだ。だがそれはほとんどの場合、何も見つけられずに
人生は終わってしまう。たとえ何らかの形でそれを見つけても、それのおかげで人生を楽しめるかということもわからない。」
子供はまるで演説でもしているように勝手にべらべらとしゃべった。下人はわけがわからず呆然と立ち尽くしていたが、はっとたちなお
ると、言った。
「なにをいっているんだ!?」
しかし、子供はその叫びを無視すると演説を再開した。
「だが、こういう人間もいる・・・目的を見つけるなんて面倒だ。もし、探し当てられたとしてもどうということもない。ならば、もう考える
のはよそう・・・と。こういうことを考えるやつは、弱い。目的を探しながらも結局見つけられず死んでいった人々と、そういう人々を馬鹿
にし、蔑みながら姑息に生きているやつ、どっちがより人間らしいか?それは答える必要もない。弱いやつは死ぬべきだ。」
「だれのことを言っている!?」
下人は激昂していた。自分が悩みに悩んだ末、仕方なく考え出した生き方をこんな子供に馬鹿にされたこともその要因の一つであったが、
子供の連ねる言葉が、見えない槍となって下人の体を貫いていたのは下人にとって耐えがたい痛みだっただろう。
下人は腰の太刀を抜き払うと、猛然と子供に襲い掛かった。その動きはひどく荒く、よけようと思えば子供でもよけることができそうだ
った。だが子供は微動だにせず、軽い微笑を浮かべているだけだ。子供まであと一尺ほどまで迫ったときやっと子供の顔が見えた。その瞬
間、下人の顔がこわばった。その顔は下人にうりふたつで同じところににきびまである。
「ま、まさかおまえは!?」
下人は切りかかるのを抑えようとした。しかし下人の意思に逆らい、筋肉はその伸縮を止めなかった。
「!!」
下人はいつの間にか閉じていた目をゆっくりと開いた。その場には、胴体が離れた子供の首が転がっていた。その情景はこの羅生門には
似合っていた。あえて不釣合いなところを述べるとすれば、子供の顔が笑っていることだ。笑っているといっても、その笑顔からは何の感情
も読み取れない。
下人は呆然としていた。今まで何人もの人を切り捨ててきた。女、子供、老人、どんな人を切っても平然としていたものだが、今の下人の心
にはなんともいいがたい寂寥感があった。
夜が明け、いつものようにからすが飛びまわっている、昼間になっても下人はその場を動かなかった。その日の夜になって、やっとのっそ
りと動き出した。どこに向かっているのかはわからないが、その背中からは以前の下人の姿を連想させることはできなかった。
時間は何の感情も持たず、ただ前に進んでいくものだが、そのときだけは時間の流れさえも歩みを止め下人の後ろ姿を見ているようだった。
・・・どうでしたか?結構自分では上手く書けたと思ったんですが。
これ、長いでしょ?この続きを書いたのはけんいちのクラスだけだったんですが皆とは比べ物にならないほど長いんす。そのため出来たのは提出日を大きく過ぎてから・・・。幸い、一クラスだけっだったんで成績には入らなかったんですが、けんいちの提出を待っていた現代文の先生、ありがとうございました。
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